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w closet×JUGEM

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

今村夏子『むらさきのスカートの女』

第161回芥川賞受賞作。初めての今村夏子さんです。オビには、

 

近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で働きだすように誘導し、その生活を観察し続ける。

 

とありますが、実際の〈わたし(自称:黄色いカーディガンの女)〉の行動は、観察レベルを超えていて、完全なるストーカーと言えるほどの不気味な執着のみを示していきます。冒頭から「むらさきのスカートの女」は、行動も姿も世の中に適応しづらい女性の典型ように語られていくのですが、〈わたし〉が彼女に近づけば近づくほど、「むらさきのスカートの女」が、〈わたし〉の認識とは違った現実社会で普通に生きられる(生きている)女であることが浮かび上がってきます。むしろ、〈わたし〉の異常性の方が際立ってきて、読者はゾワゾワさせられます。

 

 

そして、執拗なストーキングにも関わらず、不思議なことに、〈わたし〉が「むらさきのスカートの女」に気づかれることは全くありません。この辺から、読者は、もしかして二人は同一人物なのではないか…なんてことも考えながら読んでいくことになります。しかし、物語を追っていくと、やはり作者は二人を別人として設定しているようです。最終的な物語の展開、そして、集約点を思う時、この話は、社会的に認知されにくい〈わたし〉が、「黄色いカーディガンの女」として社会に存在するようになる話だったのだなと思いました。

〈わたし〉の思い込んでいた「むらさきのスカートの女」とは、「黄色いカーディガンの女」になりたい〈わたし〉が思い描いていた理想像であって、これから〈わたし〉はやっとなりたい「黄色いカーディガンの女」になっていくのでしょう。それは、社会的に好ましい存在とはいいがたいものなのかもしれませんが、〈わたし〉にとっては唯一の社会に色をもった人間として存在できる術なのかもしれません。そう思うと、表紙のイラストは「むらさきのスカートの女」を通して変化する彼女を象徴しているようで、またゾワゾワがこみあげてきました。ドット柄の布の下には、かなしくもいじらしい人間が隠されているようです。

  • 2019.08.24 Saturday
  • 23:08

事務局レポート

松山市制施行130周年記念『第22回俳句甲子園全国大会』

俳都松山の夏の風物詩ともなった「俳句甲子園」!

8月17&18日の二日間、大街道商店街特設会場と松山市総合コミュニティセンターにて、熱い戦いが繰り広げられました。
俳句もディベートもレベルアップして、予選からチームの差が全くない状態でまったく旗の数がよめません! 審査員の好み次第でいかようにも判定が変わりそうな好試合ばかりでした!

 

 

令和初めての優勝は弘前高等学校!
最優秀句は、開成高等学校 重田渉さんの「中腰の世界に玉葱の匂ふ」に!

それにしても、表彰式の個人賞の発表は何度見てもよいものです。チームメイトの受賞に喜ぶメンバーたちの様子からも、俳句甲子園までのそれぞれのチームが送ったであろう充実の日々が想像させられ、胸が熱くなりました。

 

 

表彰式後には、恒例となったプレバト!!芸人VS優勝校のエキシビションマッチも開催。東国原英夫さん、立川志らくさん、フルーツポンチ村上健志さんが来松し、キャメリアホールは最後まで満席でした。放送も楽しみです!

  • 2019.08.18 Sunday
  • 20:32

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

川上未映子『夏物語』

以前紹介した『乳と卵』をリブートし取り込みながら、AID(非配偶者間人工授精)というテーマを中心に据えた『夏物語』は、命の存在意義・生まれること・生むことを、シビアに真正面から問うていく作品です。

作家となった38歳の夏子は、結婚しない生き方を選択しながらも、「自分の子どもに会いたい」との思いから、パートナーなしの出産を目指すようになります。そして彼女が出会い心を寄せていくのが、「精子提供」で生まれ、辛い過去を背負っている逢沢潤です。相澤以外の登場人物たちは、大小様々な生きづらさを抱えた女性を中心に構成されていくのですが、シングルマザー・仕事を選ぶ独身女性・性被害者・嫁ぎ先(姑)の拘束に縛られる嫁など、孤独を抱えた女性達の中でも一番壮絶な人生を送ってきたのが、相澤の恋人・善百合子です。AIDで生まれた女性であるために凌辱され続けてきた善百合子の過去が悲惨であるからこそ、出産を「暴力的」で親の「身勝手な賭け」だという彼女の主張が、夏子を、そして、読者を大きく揺さぶっていきます。

 

 

出産を肯定に捉えるか、否定的に捉えるか、登場人物達それぞれに温度差がありますが、あらゆる価値観の人々が登場してきて、また、生むことの対極にある「死」の物語が作品を支えているので、読者も生み生まれることの意味を、自分のものとして読んでいくことができるのではないかと感じました。

到底簡単には幸せを手に入れられないだろう登場人物達の中で、一番の救いは、一章から登場している緑子と巻子の存在です。一章で生む女になることを嫌悪する小学生だった緑子が、二章では(苦しい生活環境は変わらないものの)女としての幸せを掴みそうな存在に成長していること、母巻子とともに、生む女になりたい夏子をどんと受け止める存在であるところに、作者川上未映子さんの生み生まれること、そして生きることへの希望を感じました。

生むとは、生きるとは、人と出会うことなのではないか。生き方とは、個人一人一人が自分の意思で掴みとっていくしかないのではないか。そして、生きづらい現実の中にも、生きる意味は必ずあるのではないか。そんな作者の祈りを感じる作品でした。

  • 2019.08.17 Saturday
  • 09:41

俳句関連・書籍など 紹介

夏井いつき『子規365日』

朝日新書『子規365日』が、11年ぶりに新しく文庫になりました。朝日新聞紙面で一年間連載されたコラムが元になっていますので、正岡子規の俳句を一日一句完結で、解説と共に味わうことができ、どのページからでも読み始められるのが特徴です。研究者の視点から解説するのではなく、俳人の目線で選ばれているので、有名な子規の句はもちろん、生活者であった子規の姿の見えてくる句がたくさん紹介されています。病気と闘う子規が、苦しみの中にも作句し、書き続けられたのは、彼の精神の明るさ故であったのだ、ということを感じられる一冊です。

 

 

文庫版になるにあたり、季語一覧の目次や、読者が頭の中に残っているキーワードなどから目当ての俳句に行きつけるような索引も追加されていて、より知りたい俳句が見つけやすくなりました。文庫の見開きで3句を紹介しているので、子規を知らない人、俳句を知らない人にとっても楽しめる分量です。一日一句、子規俳句と出会ってみませんか!?

  • 2019.08.11 Sunday
  • 11:04

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

川上未映子『乳と卵』

第138回芥川賞受賞作。川上未映子さんと言えば、最近刊行された長編『夏物語』が話題ですが、第一部が『乳と卵』をリブートした作品で、第二部は『乳と卵』の登場人物達を主人公にした8年後を描いたものだと知って、『夏物語』の前に読み返してみたくなりました。

『乳と卵』は、語り手である東京在住の夏子と、大阪からやってきたホステスの姉・巻子と、その娘の緑子との三日間の物語です。大阪弁のスパイスを加えた、語りのような独特の長い文体に、12歳の緑子のナマの感情が綴られたノートの断片が組み合わされた作品です。文体に慣れるまで少し時間はかかりましたが、読んでいるうちに、三人の世界の中に取り込まれてしまいます。

女としての自分を取り戻すかのように豊胸手術に取りつかれている母・巻子と、大人(女)になることに嫌悪感を抱く娘・緑子。緑子が受け入れたくないワードとして、卵子・生理・受精卵・妊娠・胸…、などが繰り返し出てきます。また、半年以上全くしゃべらずに筆談でしか会話をしない緑子を持て余す巻子(や夏子)を通して、読者も思春期ならではの存在としての緑子を受け入れそうになるのですが、実は彼女の本心が、「しゃべったらケンカになるし、またひどいことゆうてまうし、働いてばっかりでつかれてるの、それも半分、いや、全部あたしのせいやって思ったら、厭厭厭ではやく大人になって一生懸命に働いてお金をあげたいけれど(略)」と母への思いからのものであることを知るところあたりから、緑子への見方が変わってきます。生む女になることの葛藤の中で、生んだ母や、生まれてきた自分を受け入れようともがいている緑子が丁寧に描かれているからこそ、クライマックスの爆発的で劇的なぶつかり合いに、読者は、驚きよりも共感や切実さを感じ、また、一種のカタルシスをも与えてもらえるのだろうと感じました。

 

 

新刊『夏物語』は、「パートナーなしの妊娠、出産を目指す夏子のまえに現れた、精子提供で生まれ「父の顔」を知らない逢沢潤——生命の意味をめぐる真摯な問いを、切ない詩情と泣き笑いに満ちた極上の筆致で描く、21世紀の世界文学。」とのこと。

現在cakesで無料で公開されている『夏物語』の第一部を読んでみると、『乳と卵』が読みやすくテンポよくリブートされていて、早く本筋の第二部を手に取ってみたくなっています。

  • 2019.08.03 Saturday
  • 13:09