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w closet×JUGEM

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

朝井リョウ『どうしても生きてる』

何らかの生きづらさを抱えている私たちが、それでも生きている理由は…と問われたとしたら…。答えなど出せないそんな問いを前にした時、結局私たちは、「どうしても生きてる」としか言うことができないのかもしれません。

そんな明確な答えの出せないところで生きている6つの人生からなった短編集です。

 

 

・〇〇だから××と簡単には説明できず、本人すらわからない積もり続けている何かに生死を左右される私たち。しかし一方で、確かに存在している生きる欲求。「健やかな論理」

・丸裸に自分をさらけ出せる者への羨望や嫉妬を抱え、自分に嘘をつきながら生きていく人生。そんな中でも手放すことのできない自分の変わる可能性。「流転」

・どんなに絶望的な状況にあっても、意味ないものの中にも見つけていく生きるよすが。「七分二十四秒目へ」

・ルールを破ることでしか成立しない社会の現実。飲み込まれそうになりながらも、それでも生きなければならない明日を受け止める強さ。「風が吹いたとて」

・私を離れ、誰でもない存在としてあることの必要性。我慢せずに思ったことをそのまま言える時間、自己を解放できる場所を持ちたいと願う悲しき人間。「そんなの痛いに決まってる」

・ハズレクジだけを引くような人生にあって、ハズレを嘆くのではなく受け止め、前に進んでいこうとする意志。ハズレをアタリにできるのは、自分だけなのかもしれない。「籤」

 

確かに「読み心地がいいものばかりではない」短編集ですが、「どうしても生き」るしかない私たちの可能性を信じたい作者の眼差しを感じずにいられない作品でした。

  • 2019.10.19 Saturday
  • 19:04

実践報告・お便り

オーサー・ビジット2019 in 福岡女学院高校

朝日新聞社が開催している本の著者(オーサー)が各地の学校を訪ねて特別授業をする「オーサー・ビジット2019」。

福岡女学院高校の谷口先生から届きましたレポートをご紹介します。

 

 

2019オーサービジット「夏井いつきの句会ライブ」福岡女学院高校

 

 この企画が始まった約三十年ほど前に「工藤直子先生」に応募したのが始まり、以来、「平田オリザ先生」をはじめ、多くの作家先生に生徒会役員達が中心となって応募してきましたが、叶わぬまま。俳句を学んでいる者として、「今年はどうしても、生徒達に敬愛するいつき先生と出会わせて俳句の楽しさを味あわせたい」と呼びかけました。プレバトの影響もあって、生徒達の反応も関心も今までよりも一番強く、四クラス同時に競って工夫をして応募致しました。
 八月末に朝日新聞社からのお電話で四クラス一緒にどうぞとのこと。教頭も即答、教務主任も音楽科まで入れて一年生全体五クラスでお願いしようと決定いたしました。
   さて、十月九日の朝は天高く晴れ渡り、いつき先生をお迎えするのに格好の句会ライブ日和。五、六時間目、シオン館視聴覚室は、生徒一五七名、先生二〇名、スタッフさん五名、記者さんやカメラマンさん、校内広報部の皆さんに囲まれ、始まる前から既に生徒達は高揚、緊張した雰囲気です。
 いつき先生は九泊十日の旅からお戻りになったばかり、二日松山滞在されて、すぐに出発されたれたとのこと、今回こちらに来ることができたのもたまたま日程が合って宮崎に行く途中立ち寄ることができたという絶妙な「ご縁」だったそうです。
 先生ではなく、「いつきさん」「組長」と呼んでくださいねと優しい語り口。プレバトの裏話、キスマイのアイドルの話題も出て、テレビで拝見する厳しい先生の雰囲気とは違う!といつき先生の軽妙な語り口に全員の緊張があっという間にほぐれ、笑いの渦。生徒達のテンションはいよいよ高まりました。
  ここから簡単に俳句を作る「取り合わせの方法」を学びます。すぐに数学の和田先生がその作り方の実践例としていつき先生のインタビューを受けました。貫禄のある和田先生もいつき先生の誘導により、笑顔で一句をつぶやいてくださいました。「からあげのランチを食べた鰯雲」その「俳句の種」に思い思いの季語をくっつけて、今度は季語の選び方を練習しました。
  次は生徒ひとりひとりの「五分で一句」の実践です。「スタッフさん、先生達も作るんですよ」といわれ、急に大教室がしんとしずまりかえり、空気がきいんとした密度に変わって行きました。創作のエネルギーや俳句の神様が降りてくる瞬間でしょうか。途中トイレ休憩に行く生徒もいれば、いつき先生の選句をじいっと見ている生徒達もおりました。
  入選句が次々に読み上げられて、作者といつき先生のやりとりにさらに教室が笑いの渦。
国語の好き嫌い関係なく皆満面の笑み。「勉強の悩み、お母さんとの口げんか、朝ご飯のおかずのこと、通学のありさま」日常の一コマが季語とのマッチングにより生き生きした俳句となりました。修学旅行に行けなかった英語の先生も「自由でも満たされない日隙間風」いつき先生の名刺をいただき、松山の施設のクーポンをもらって大喜び。
  最後は特選七句。一人一人が手を上げて好きな句の選評をします。そこから作品の世界が厚みを帯びて広がります。評を先生にも褒められた生徒さんもにっこり。評に作品が磨かれて立体的になり、作者の名乗り、解説で全員が「あーっ」と納得。そんな熱い時間が過ぎ、最後は多数決で一位を決めることになりました。一位は「駐輪場ドミノ倒しで秋さびし」に決定。いつき先生のサイン入りの俳句手帳、俳句の本をもらって特選のみなさんもさらににこにこ、大満足です。
  最後は全員でいつき先生を囲んで記念撮影。記者の方からインタビュー受ける生徒さんもいれば、そのあともしばらくはいつき先生を取り囲んで離れない生徒さんたちの笑い声が響きました。「わたし、いつき先生が大好きになった!」「プレバト毎週見ます!」「松山に遊びに行ってクーポン使い切ります」「いつき先生画面の向こうから応援しています。体に気をつけて長生きしてください。」「先生また会いたいです」そんな台詞が耳に残っています。
 夏井先生、朝日新聞社の皆様ありがとうございました。心からの感謝とともに。(谷口奈々美)
 

 

(写真は福岡女学院高校HP「2019オーサービジット『夏井いつきの句会ライブ』が行われました」より)

 

(特選七句)
いつまでも変わらぬ心春一番        一組
風薫る七百グラムの重き命           四組
駐輪場ドミノ倒しで秋さびし          三組
秋の朝リボンをなでるバスの波           二組
ドレス着てチョコをぱくっと夏来る       音楽科
数学のノートを閉じる冬林檎                四組
蝸牛くびを左右に雲はゆく             広報校友課

 

(入選句)
数学を不正解する秋さびし                一組
祖母のマネ針穴通し初桜                 一組
勉強をしたら知恵熱冬ざるる             一組
油照埋まらぬ解答あと十分                二組
ここ数日毎朝ベーコン鰯雲                二組
母親の心を知らず隙間風                 二組
舞う桜不安な私の背中押す                二組
人生は楽しめばよい春愁               三組
テスト後の解答用紙ソーダ水             三組
秋の蝶エレクトーンの躍る音           四組
何書こう紙を眺める空っ風              四組
母親へとりあえず言う秋の朝         四組
言えたこと褒めたたえる若葉風    四組
絵のような空撮りそこね空っ風        音楽科
星月夜我が身も踊る歌声に      音楽科
自由でも満たされない日隙間風          教員
数学の生徒の答曼珠沙華               教員

 

(スタッフさん・教員・留学生より抜粋) 
日本にりゅうがくしている春隣     タイの留学生
秋晴れにいつきの笑顔ゲットOK!       写真家
秋の昼カメラ片手に俳句詠む              教員・数学科
風食べて靴がかけっこ秋の空              教員・国語科
愛犬に留守番頼む秋の朝                    教員・英語科
走りきり目標クリア風光る             教員・社会科

 

(いつき先生へメッセージ俳句)
飼っていた羊が子を産み大量発生  一組(内面世界が広がったことの比喩)
先生とご縁で結ばれ秋うらら            二組
組長と過ごした二時間春の風            四組
初対面呼び捨てされし日鰯雲            四組
先生とご縁で結ばれ天高し              音楽科
 

  • 2019.10.16 Wednesday
  • 22:39

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

天童荒太『巡礼の家』

松山人であることの誇りを持てるような小説でした。

道後への、そして、四国八十八カ所を支えるお接待の精神への愛に満ち溢れていて、巡礼の家「さぎのや」で癒される登場人物たちと共に、読者までもが癒されていく、そんな作品です。そして、魅力的な登場人物たちの登場するストーリーを、純粋に面白く楽しみました。

 

 

生きとし生けるもの全ては、「何かしらの役割を背負い、親しい者たちの死を抱え、みずからもやがては死なねばならない、哀しくて切ない旅の者」である。そんな私たちの羽を休める場所として存在し続けてきた、3000年の歴史を重ねる「さぎのや」。日本最古の湯・道後温泉を見つけたサギが、初代の女将だったと言われる「さぎのや」の、人々の悲しみやつらさを受け止めてきた「心」が、「一人のために、みんながおのれを犠牲にして汗をかく」道後の粋と重ねて描かれていきます。

登場人物たちの抱える問題に、戦争、災害なども盛り込みながら、「命の大切さ」「共に生きることのかけがえのなさ」が静かに描かれる一方で、道後の「動」の象徴でもある秋祭での大神輿の鉢合わせの「命の限界を超える勢いでぶつかることで、生きていられることを祝い、喜び、天に向かって感謝を捧げ」る勇壮さも迫力で迫ってきます。

「互いに手を差しのべ、助け合うことで、みんなが共に笑って生きている」道後。命が巡り、人の思いが巡る道後。改めて、道後を散策してみたい気になっています。

 

**************      **************

 

『巡礼の家』刊行記念イベント【天童荒太 ふるさとを語る】

が10月20日(日)松山市立子規記念博物館にて開催されるようです。天童荒太さんがどのような「ふるさと」を語ってくれるのか、今から楽しみでなりません。

  • 2019.10.13 Sunday
  • 10:40

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

田辺聖子『金魚のうろこ』

句友・更紗さんが、SNSの投稿で『金魚のうろこ』を取り上げ、

「明るさのなかに陰があり、面白くて切なくて、諧謔味とユーモアたっぷり。短編それぞれの着地にも唸る。田辺聖子さん、やっぱり凄い〜」

と絶賛。興味をひかれ、思わず手に取った7編の短編集でした。

 

 

それぞれの主人公は、21歳のガールフレンドの36歳くらいの継母に惹かれていく大学生、何人もの男性を手玉に取る(結果的には取られた?)33歳の女性、16歳年下の彼に年齢を告げていない39歳の女性、女性の本質をのぞき見ては相手に本気になれない45歳男性、不倫を花火ととらえ楽しみたい28歳女性、59歳になって58歳までにはなかったある種の達観を手に入れた男性、結婚というゴールに意味を見出せず居心地の良い弟との関係で満足する36歳女性と、一癖も二癖もありそうな人物たちです。

物語には、どんでん返しというか、しっぺ返しなどもあったりするのですが、それぞれが自分の現状になんとなく満足している様子は共通していて、全てを受け止めて焦りなどないところが、淡々とした独特の空気をつくっています。主人公たちが異性に不自由していないという事実も、物事から切実さをなくすことに一役買っている気がします。全編にわたる大阪弁も、登場人物たちの切羽詰まっていない感じと相まって、読者に心地よくストレートに届いてきます。

表題作で、夜明けの美しさを「人生以上に美しいけど、でも、人生にはもっと美しい時もある」とし、それを「人生以上。人生未満。」と表現していたのが象徴的でした。もがき苦しむことのない登場人物たちから、あくせく生きなくてよい、人生はそのままに受け入れていこうよ、とでも言われているような気になりました。

  • 2019.10.05 Saturday
  • 21:36

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』

実在した人形浄瑠璃作家・近松半二の生涯を描いた第161回直木賞受賞作。

主人公は、あの近松門左衛門の硯を譲り受けて、「せめて半人前になるように力を尽くそう」、「半分と半分、二つ合わせて一人前」と名乗りはじめた近松半二。そして、その半二の脇を魅力的な登場人物たちが支えます。斬新なアイデアで歌舞伎界に新風を吹き込むことになる並木正三は、半二のライバルであり、真の理解者。ちょっと癖はあるものの、油断してると「腹ん中が、ひきずりだされる」ような人形を使い、半二を浄瑠璃作家の道へ引きずり込んだ吉田文三郎。肝が据わった女房のお佐久などなど…。枚挙にいとまがありません。代表作でもある『妹背山婦女庭訓』の作成過程をど真ん中に据えて、「ぶっとい芯」のある浄瑠璃を目指す半二たちの物語です。

 

 

それぞれが、それぞれの役回りを背負って動いてる狂言のような「この世」。私たちが生きる世こそが妖かしであり、この世もあの世も虚実の渦である。そんな渦の中から、生まれたがっている詞章をずるりずるりと引き出して、人の世の凄まじさを文字にしてつなぎ止めていくのが人形浄瑠璃である。

人形浄瑠璃の世界の「渦」だけでなく、読者それぞれが生きている世界にある普遍的な「渦」までを意識させられるような作品でした。

人形浄瑠璃という「まことの妖かし」に翻弄されたくなって、さっそく公演情報を検索してしまっています(笑)

  • 2019.09.28 Saturday
  • 19:58