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w closet×JUGEM

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

朝井リョウ『発注いただきました!』

デビュー10周年を迎えた朝井リョウさんの最新刊『発注いただきました!』

これまでに、企業とのタイアップや他の作品とコラボして書いた文章を集めた作品集なのですが、「はじめに」で以下のようにコンセプトが示されています。

 

作品をそのままずらりとコレクションしただけではあまりに詐欺めいているので、それぞれ、【(1)どんな発注を受けて書いた作品なのかを提示(テーマ、枚数など)】→【(2)作品】→【(3)発注にどう応えたのか、答え合わせ】という順番で掲載すれば、全体の構造として(主に私が)より楽しめるのではないか、と考えた。この一冊を読み終えたころには、皆さまにも、タイアップ作品二十本ノックをやり終えた感覚を味わっていただけることだろう。そもそも味わいたいかどうかは別にして。

 

 

一番のオススメは、やはり新作の「贋作」です。

贋作が贋作であり続けるために、装うことで何かを傷つけていくという真実。そんな贋作を贋作と見破るものもあれば、見破れずに贋作を愛でるものもある。しかし、真実を手にいれたからと言って人は救われるのではないし、贋作から救われる人もある。どちらも世の中に確かに存在している事実だけがあるのであって、何が誰にとっての救いとなるのかなんて分からない…。

進化しつつ、また、朝井リョウ的毒は変わらない、そんな10周年記念短編でした。

 

 

朝井リョウさんのファンとしては、書籍化されているものについては既読のものもあったのですが、キャラメルやビールなどの商品購入で読むことのできる、短い連作小説などはこの試みでもないと手に取ることができなかったので、嬉しい10周年企画でした。とはいえ、『ノベルアクト2』掲載の小説などは掲載されていなかったので、許可取りなどの関係で収められなかった作品がまだ残っているのでは…!? と気になってしまいました。(笑)

  • 2020.03.08 Sunday
  • 14:19

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

朝吹真理子『きことわ』

第144回芥川賞受賞作品。タイトルは、二人の主人公の貴子(きこ)と永遠子(とわこ)からと想像できます。少女時代に二人が過ごした濃密な時間が、永遠子の夢として読者に提示されながら、25年後の思い出の別荘を処分することとなった二人におとずれた再会の時間が重ねられていきす。

終始、夢の中の時間にあり続けているような、浮遊し続けているような不思議な作品でした。永遠子の夢と、夢ではない確かな25年後の現実が織り交ぜられているようでありながら、現実と思われる時間軸の中でも、ありえないような目撃情報のエピソードがあったり、さっきまで満月だった月が新月になっていたりと、説明のつかない不思議なことが、当たり前のようにサラリと書き込まれていきます。また、永遠子が古生代の生き物に興味をひかれる人物なのも象徴的で、大きなとてつもない時間だけがそこにあるような気もしてきて、どこまでが現実なのか、作者は現実的な何かを描くつもりがあるのか…、いったい何を…と引きずられながら読んでいったような読書体験でした。

 

 

中でも特に気になり続けたのが、髪を何かに強く引っ張られる感覚が三度も描かれているところです。

・少女時代の貴子が、屋根瓦から落ちそうになった時、頭髪の痙られた感触が残るくらい強く引っぱられた。

・廊下で本を運んでいた貴子の頭髪が、なにかに引きつかまれ、廊下の闇へと引っ張られ、闇にもっていかれそうになり、何とか振りほどいた。

・帰り道の永遠子が、突然遮断機の前で髪の根がひきつかまえられて、ぐらりと後ろに倒れた。

二人ともに、髪を引っ張られてその後尻もちをついているのですが、彼女らを引っぱったものが何だったのか明かされることはなく、(作品全体が夢のような漠然としたものであるならば、回収する必要もないのでしょうが、夢ならばなおさらに、)このしっかりと残る感覚が何なのか、気になって仕方がなくなりました。きっと、25年前の夏の二人が、身長も髪の長さも同じくらいで、後ろからは見分けがつかず、お互いの髪をとかそうとすると、よくからませていたり、背中合わせで眠る二人の髪と髪が、ひとつなぎの束のように見えたとの髪の描写が印象的だったりしたので、「後ろに引っ張られる髪」に意味があるように感じてしまったのかもしれません。ともかく、読者としては(も!?)、後ろ髪を引かれるような感覚を残された作品でしたが、もしかすると朝吹さんは、この答えのない感覚を描こうとしていたのかもしれません。

  • 2020.02.23 Sunday
  • 13:24

実践報告・お便り

オーサー・ビジット 朝日新聞掲載記事のご紹介

2月8日(土)付の朝日新聞紙上で、福岡女学院高校にて開催された副会長の特別授業の記録が掲載されました。

 

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福岡女学院高校のオーサー・ビジットにつきましては、これまでも本ブログの以下の記事にてご紹介しておりますので、ご参考になさってください。

 

好書好日「オーサー・ビジット 教室編」記事のご紹介

オーサー・ビジット2019 in 福岡女学院高校

続・オーサー・ビジット2019 in 福岡女学院高校

 

  • 2020.02.16 Sunday
  • 20:54

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

吉田修一『続横道世之介』

柴田錬三郎賞受賞作品で、2012年に映画化された『横道世之介』の続編です。前作では18〜19歳だった世之介の6年後、一年留年して大学を卒業したものの、バブル最後の売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつないでいる世之介の前に訪れてくる人々との一年間が描かれます。

 

 

『横道世之介』が、世之介と彼にかかわる人々のその後の挿話という二重構造になっていたのと同様に、24〜25歳の世之介と世之介を取り巻く人々と、27年後の2020年、東京オリンピック最中のその後の彼らの現在とが交錯していきます。

それにしても、世之介は変わらない。もちろん、モラトリアム期間の大学生とは違って、責任感を必要とする人間関係が表れてくるので、その中での世之介の成長はあります。しかし続編でも、「良い人そうに見えるが極端に頼りない」ままです。とはいえ、やはり「役に立たなくてもいいから、誰かそばにいてほしいとき」にいてほしい人であり、「ここからいくらでもスタートできるな」「きっと何もかもが良い方向に進んでいくはずだと思わせてくれる」人であり続けます。

 

 

前作で読者に突き付けられた、世之介のなんともやるせない結末が変わることはありませんし、そこに甘くない現実を見ることもできるのですが、続編で描かれた世之介にかかわった人々の27年後を思う時、「善良であることの奇跡」を体現した世之介の物語は、ある種、殺伐とした現代のメルヘンなのかもしれないなと感じました。

  • 2020.02.11 Tuesday
  • 19:00

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

藤村忠寿・嬉野雅道『仕事論』

6年ぶりの待望の新作が放送中で盛り上がっている、北海道テレビ(HTB)の人気バラエティ番組『水曜どうでしょうHow do you like wednesday?』。実は私も、今回の新作に喜んでいるファンの一人で、新作公開前のインタビュー記事を読んで楽しみにしていました。

1996年にスタートし2002年までレギュラー放送され、その後不定期に公開されている『水曜どうでしょう』の出演者は、現在では俳優として引っ張りだこの大泉洋さんと、ミスターこと鈴井貴之さんのタレント枠2人に、藤やんこと藤村忠寿さん&うれしーこと嬉野雅道さんの同行ディレクター2人の4人です。出演者の掛け合いや、大泉さんのボヤき、トラブルをそのままネタにするアクシデントの数々が楽しい番組で、全国で再放送されたり、DVD化されたりしています。その2人の名物ディレクターが「働き方」の本質を語ったのが『仕事論』です。オビには、「やりたいことで結果を出すための『自分勝手』な思考法」と書かれています。枠にとらわれない斬新な超人気番組を作ったディレクターが、会社員としての立場から仕事をどう語るのか、興味津々で手に取りました。

 

 

藤村さんと嬉野さんが交互に語っていく形式で進められていくのですが、ただ闇雲に頑張れという立場ではなく、安請け合いをしない、深く考えれば無茶な指示は断れる、など、番組制作体験を例に引きながら、独特の「仕事論」が展開されていきます「『自分たちが面白いと信じること』をやり続けてきた」だけで、「テレビ番組を作っているという意識がない」と言いながらも、そこでひかれる以下のたとえ話を特に興味深く読みました。

一般に、新しいグラスをつくることになった場合、普通は今の流行を考えたり、次の流行を予測して作ろうとする。しかし、二人の場合は、グラスじゃなくて皿を作ってもいいんじゃないかと考えて、自分たちが作りたい皿を作る。とはいえ、自分たちの皿の魅力を見極める必要はあって、自分たちの長けている能力を使った皿をつくらなければならない。できたものに意見を言われても、その意見の箇所に狙いはないのだから、気にする必要はない。「『世の中で求められているもの』を作り出そうってことは、一切考えたことがありません。自分たちが絶対に面白いと思うものを作れば、良いものが出来上がるんだという確信があります。(略)やれと言われたことを無視するほどの思いで作ったわけですから、おのずとクオリティも高くなるはずなんです。」と。

「社会はどこまでいっても、人、人、人」というスタンスに立ち、「私たち人間が一番好きな対象が人間」であるからこそ、視聴者は「『他人がどんな考えをもっているか』に強い興味を抱」いてテレビに耳を傾ける。「人間が作る以上、目指しているのは他者との交流」であると言い切る本書。「『自分』の尺度でものを言」い、「成功や失敗という結果より、やってみることの方が人生には大事」という『仕事論』は、仕事にかかわらず、人生をより豊かに自分らしく生きるために背中を押してくれるような一冊でした。

  • 2020.02.01 Saturday
  • 17:22