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w closet×JUGEM

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

大浦みずき『夢*宝塚』内藤啓子『赤毛のなっちゅん―宝塚を愛し、舞台に生きた妹・大浦みずきに』

いきなり個人的な話ですが、中学校の修学旅行で宝塚歌劇を観劇してから、大学までの間(今考えればかなりな)宝塚ファンで、中でも、ファンクラブにも入りお茶会にも参加していたのが大浦みずきさん(愛称:なつめさん)という花組のトップスターさんでした。大学生の時にちょうどなつめさんの宝塚の退団があり、また私自身の就職や結婚など環境の変化で、それからはどんどん宝塚から離れる一方だったのですが、最近ひょんな懐かしいご縁があり、宝塚にドップリだった青春時代を思いだし、なつめさん関係の2冊を手にとってみました。

 

 

なつめさんの宝塚退団のタイミングで、パレットに連載されていたエッセイをまとめたのが『夢*宝塚』です。宝塚に入ると決心した時から、音楽学校時代、数々の舞台や怪我を経てトップスターになるまでの「青春自叙伝」。とにかく懐かしい! あの歌声が、宝塚屈指と言われていたなつめさんの抜群のダンスがよみがえってきます! 大昔、VHSテープがすり減るまで見ていた映像のいくつかを、ネット上で見つけてたびたび脱線。懐かしい読書でした。
なつめさんは、2009年11月、肺癌のために亡くなってしまわれます。なつめさんの生涯を姉の目から描いたのが『赤毛のなっちゅん』です。『夢*宝塚』に書かれていた宝塚生活はもちろん、退団後の活躍の様子や闘病生活の様子も淡々と描かれています。また、お父さまは、童謡「さっちゃん」で有名な芥川賞作家の阪田寛夫さんなのですが、なつめさんだけでなく、阪田寛夫さんやお母さまの、老いた生活の様子なども包み隠さず書かれていて、家族を真正面からひたむきに描き出そうとする書きぶりに心動かされました。遅ればせながら、なつめさんにお別れさせてもらえた、そんな一冊でした。

  • 2019.05.25 Saturday
  • 20:13

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』

第153回芥川賞受賞作。辞書的には「スクラップ・アンド・ビルド」とは、「老朽化したり陳腐化したりして物理的または機能的に古くなった設備を廃棄し、高能率の新鋭設備に置き換えること」。母と二人で、87歳の祖父の介護をする28歳の転職面接中の青年・健斗が主人公なのですが、何が「スクラップ」で、何が「ビルド」なのか、簡単に答えが出せるものではなく、何層にも仕掛けられている作品だと感じました。

 

 

「もう死んだらよか」と繰り返す祖父の願望を「本当の孝行孫」として叶えるべく、尊厳死をアシストしようとする健斗。日々自らの肉体を筋トレで鍛え上げ、よりよい肉体を再生し続ける健斗。中途採用面接と、行政書士の資格試験の勉強とを続けながら、人生を再構築しようとする健斗。

死に向かう祖父とは対局にある存在のような健斗ですが、弱っていく祖父が将来の自分の姿であるという苛立ちを払拭できない彼自身も描かれており、実は二人は対極ではないのではないか…、「スクラップ」され「ビルド」されるものとは…と考え込んでしまいました。祖父の戦争時代の話の真偽や、祖父の本当の願望、そして、結末で健斗が置かれた状況などなど…、結末そのものはとても明快に書かれているのですが、読者それぞれに様々な解釈が許されている作品でした。

  • 2019.05.18 Saturday
  • 20:08

事務局レポート

三重中学校・句会ライブ

松山で修学旅行中の三重中学校の皆さん。道後を散策して俳句を詠んでくれた生徒さんがいるとのことで、松山市立子規記念博物館へ句会ライブに行ってきました。
決勝十句の句合わせで、頂点に立ったのは、現在改修工事中の道後温泉本館(入浴はできます)に降臨した、手塚治虫さんの火の鳥のオブジェから発想を得た句に! 火の鳥によって道後温泉が沸いているような愉快な句でした。

 

 

その他にも、〈道後温泉の刻太鼓〉〈道後温泉〉〈道後温泉別館 飛鳥乃湯泉〉〈道後温泉別館 飛鳥乃湯泉〉〈伊佐爾波神社の階段〉〈坊っちゃん列車〉〈市内電車〉〈道後ハイカラ通り〉、そして、LAWSONの看板にあるツバメの巣の句まで…、道後の観光案内に使えそうな楽しい佳句がズラリ!

(追記:5月末頃にはこのLAWSONのツバメの巣がネットで話題になっていて、ニュースの先取りで驚きました。)

 

 

明るく気持ちの良い三重中学生の皆さんと素敵な俳句に出会えた、楽しい道後でのひと時でした。

  • 2019.05.15 Wednesday
  • 20:28

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

長嶋有『猛スピードで母は』

芥川賞受賞の表題作と文學界新人賞受賞の「サイドカーに犬」の二編収録。

前者は、小5〜6の慎と潔いまでにあっけらかんと真っ直ぐにいきる母との二人の生活。後者は、母の家出をきっかけに始まった小4の薫と父の愛人・洋子さんと共同生活。どちらも小学生ならではの眼差しで見つめる大人の世界と、彼らの成長を描いた作品です。また、どちらも親の離婚や結婚不倫といった背景を持つ作品なのですが、小学生が眺める女性たち(母と愛人)の大胆さやブレないかっこよさも影響しているのでしょう、背景に似合わない清々しさを感じさせるのも特徴です。

 

 

「猛スピードで母は」での、母の恋人とのやりとりも絡めながら、母に「置き去りにされ」る可能性をも受け入れ、また自分の存在が母に与える影響を知り、いじめに立ち向かうまでに静かに成長する慎の姿は、母の猛スピードで好きなワーゲンの列をぐんぐん抜き去っていく最後の象徴的な場面と共に、読者に解放感を与えてくれます。

「サイドカーに犬」は、「盗み」というキーワードを中心に置くと様々に考えさせられる作品で、物品の盗みだけでなく人の心や生活の盗みなど様々な盗みが出てきます。薫自身が「飼われている」と感じる心地よさをくれる洋子さんは、本当に盗む側でしかないのか。一体誰が被害者で加害者なのか。大人になった薫の選ぶその先が意味深です。

  • 2019.05.11 Saturday
  • 18:24

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

ハンス・ペーター・リヒター三部作『あのころはフリードリヒがいた』『ぼくたちもそこにいた』『若い兵士のとき』(上田真而子 訳)

中学の国語の教科書に「ベンチ」の章が採用されている『あのころはフリードリヒがいた』。ナチスのユダヤ人迫害の様子を、ドイツ人少年の目から、ユダヤ人少年フリードリヒの悲劇として描いた作品ですが、次男の学校では、岩波少年文庫が渡されたそうで、同じ年代の中学生として衝撃を受け、3部作全てが読みたくなった作品のようでした。

実際3部作をそろえようとすると、『フリードリヒ』以外の、続編『ぼくたち〜』と完結編『若い兵士〜』が絶版になっていて、なかなか手に入れられなかったのが想定外でした。3部作とは言いながら、それぞれ、本の内容も、描き方も、少しずつ違っていて、「『フリードリヒ』が小説として読みやすかったのに対して、編を重ねる毎に、どんどんルポルタージュ的要素が強くなってくるのが特徴でした。

 

 

『ぼくたちもそこにいた』は、「フリードリヒ」を見ていたドイツ人少年自身の話です。ナチス・ドイツの青少年団「ヒトラー・ユーゲント」の現実が、淡々と書かれていて、読者は、ユダヤ人への加害者としてのドイツ人ではなく、ドイツ人少年たち自身も、戦争に翻弄された存在だった事実を突きつけられます。

『若い兵士のとき』はその少年が若い将校となった前線での三年間の体験で、こちらは、短くぶつ切れのように、事実だけが生々しく重ねられていきます。ドイツ人将校の綺麗事ではすまされない戦争での個人的体験を重ねていくことで、戦争そのものがもつ残虐さや、戦争が人を人でなくしていく様子が浮かび上がってきます。作者は、物理的にも心理的にも、破壊そのものでしかない戦争というテーマを描くために、筆致を変えていったのかもしれません。

  • 2019.05.04 Saturday
  • 17:44