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備忘録〜個人的・書籍の感想〜

朝井リョウ『もういちど生まれる』

朝井リョウさんの『どうしても生きてる』が刊行されると知った時、そのタイトルの感じと、短編集という情報だけで、勝手に『もういちど生まれる』の続編ではないか…と想像していました。読んでみると、全く別物の短編集だったのですが、思い出したのを機に改めて再読してみました。

『もういちど生まれる』は、短編集とは言え5編の登場人物たちが深く何重にも関わっている連作で、作品ごとに登場人物たちの別の側面が浮き彫りになっていく趣向です。むしろ、視点を変えた章からなる長編小説的味わいと言った方がよいかもしれません。主人公たちは、もうすぐ二十歳になる十九歳で、いわゆるモラトリアム期間にある大学生、2浪の予備校生、専門学校生です。

「こんなにも人がいるのに、ほとんどが他人」という不思議な空間である大学をベースに、何らかの形で絡み合っていく登場人物たち。頻繁に登場する「椿」をはじめ、「椿」に恋する大学生らしい大学生である「翔多」の報われない恋など、読みどころはたくさんあるのですが、中でもモラトリアムの期限を迎えようとしている「ハル」の背負った物語に、短編連作長編の集大成的なところを感じました。

 

 

これまで夢を持ち続けるためにあえて見ないようにしてきた「特別ではない自分」という現実を受け入れて、逃げないことを決めたハル。妹ハルに「向き会いたいと思」い「伝わるといいな」と、画家として「彼女の将来」を描こうとした美大生の兄・ナツ。最後にハルがとった行動に対して、「本当は伝わってなかったのかもしれない。なんにも、誰にも。」とのナツのつぶやきだけを取り出すと、一見ナツの思いは伝わらなかったように感じますが、ハルの行動が現実の自分を受け入れて前に進むためであることを思う時、ナツの思いを受け止めた上での、ギリギリまで自分自身を追い詰めて進んでいこうとするハルの強さの行為である気がしてきました。

表題短編で、自殺の撮影シーンが「もういちど生まれたみたいだった」ように、救いのなさそうなハルの選択の中にも、モラトリアムから踏み出し「もういちど生まれ」直そうとする意志を描こうとする、作者の優しい眼差しを感じさせられる作品でした。

余談ですが、単行本と文庫本の装丁を見てみると、本作の中のそれぞれ別の短編からのインスピレーションで作られています。全く印象が違った本のようでありながら、二つの装丁の間にモラトリアム期間の大学生という存在を配置すると、しっくり腑に落ちてくるという面白い表紙の改訂だなと感じました。

  • 2019.12.01 Sunday
  • 23:52

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