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備忘録〜個人的・書籍の感想〜

平野啓一郎『マチネの終わりに』

福山雅治×石田ゆり子主演で話題の映画『マチネの終わりに』の原作本です。「たった三度しか会ったことがなく、しかも、人生で最も深く愛した」大人の恋愛小説ということですが、個人的には、恋愛模様を描いた作品というよりは、ままならないすれ違いの恋愛に翻弄される男女それぞれが、一人の人間として自己肯定できる生き方を手に入れていく物語として読みました。

四十歳を目前にしたクラシック・ギタリストの蒔野と、国際ジャーナリストであり、有名な映画監督の娘である二歳年上の洋子。物語を貫くのは、蒔野と洋子が初めてあった時の蒔野のセリフです。

 

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるともいえるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものしゃないですか?」

 

 

「中高年になって突然、現実社会への適応に嫌気が差して、本来の自分へと立ち返るべく、破滅的な行動に出る」≪ヴェニスに死す≫症候群と自認する洋子は、一見、婚約破棄しても蒔野への愛を選ぼうとする自由な女性のように感じますが、実際は「理不尽で、もっと過酷な困難を生きる人々」を取材してきてPTSDの症状に苦しんでおり、「人生そのものに対する虚無感」を抱え、「どの道を選ぼうとも行き止まりはなく、それはそれとして異なる出口が準備されている迷宮の方が、遥かに残酷なのだと」考えような人物です。だからこそ、彼女は「洋子さんを愛してしまっているというのも、俺の人生の現実なんだよ。洋子さんを愛さなかった俺というのは、もうどこにも存在しない、非現実なんだ」と言ってくれる蒔野に惹かれたのでしょう。

二人のすれ違いの年月はあまりにももどかしく、動かしがたい運命のようにさえ感じてくるのですが、初めの蒔野のセリフが重低音のようにずっと鳴り続けていることによって、二人の今は、過去を変えてくれる今(という未来)を重ねているだけであり、「間違ってなかった」と現実を受け入れていく二人を必然と受け入れることができました。

結末の先は、読者によって解釈が広がりそうですが、人生は、未来はもちろん過去でさえ、自分の考え方次第で変わっていくものなのかもしれない…と信じたくなるような作品でした。

  • 2019.11.16 Saturday
  • 17:18

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