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備忘録〜個人的・書籍の感想〜

川上未映子『乳と卵』

第138回芥川賞受賞作。川上未映子さんと言えば、最近刊行された長編『夏物語』が話題ですが、第一部が『乳と卵』をリブートした作品で、第二部は『乳と卵』の登場人物達を主人公にした8年後を描いたものだと知って、『夏物語』の前に読み返してみたくなりました。

『乳と卵』は、語り手である東京在住の夏子と、大阪からやってきたホステスの姉・巻子と、その娘の緑子との三日間の物語です。大阪弁のスパイスを加えた、語りのような独特の長い文体に、12歳の緑子のナマの感情が綴られたノートの断片が組み合わされた作品です。文体に慣れるまで少し時間はかかりましたが、読んでいるうちに、三人の世界の中に取り込まれてしまいます。

女としての自分を取り戻すかのように豊胸手術に取りつかれている母・巻子と、大人(女)になることに嫌悪感を抱く娘・緑子。緑子が受け入れたくないワードとして、卵子・生理・受精卵・妊娠・胸…、などが繰り返し出てきます。また、半年以上全くしゃべらずに筆談でしか会話をしない緑子を持て余す巻子(や夏子)を通して、読者も思春期ならではの存在としての緑子を受け入れそうになるのですが、実は彼女の本心が、「しゃべったらケンカになるし、またひどいことゆうてまうし、働いてばっかりでつかれてるの、それも半分、いや、全部あたしのせいやって思ったら、厭厭厭ではやく大人になって一生懸命に働いてお金をあげたいけれど(略)」と母への思いからのものであることを知るところあたりから、緑子への見方が変わってきます。生む女になることの葛藤の中で、生んだ母や、生まれてきた自分を受け入れようともがいている緑子が丁寧に描かれているからこそ、クライマックスの爆発的で劇的なぶつかり合いに、読者は、驚きよりも共感や切実さを感じ、また、一種のカタルシスをも与えてもらえるのだろうと感じました。

 

 

新刊『夏物語』は、「パートナーなしの妊娠、出産を目指す夏子のまえに現れた、精子提供で生まれ「父の顔」を知らない逢沢潤——生命の意味をめぐる真摯な問いを、切ない詩情と泣き笑いに満ちた極上の筆致で描く、21世紀の世界文学。」とのこと。

現在cakesで無料で公開されている『夏物語』の第一部を読んでみると、『乳と卵』が読みやすくテンポよくリブートされていて、早く本筋の第二部を手に取ってみたくなっています。

  • 2019.08.03 Saturday
  • 13:09

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