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備忘録〜個人的・書籍の感想〜

朝井リョウ『ままならないから私とあなた』

常に何らかの驚きを用意してくれている朝井リョウさんの作品が大好物なのですが、『ままならないから私とあなた』を初めて読んだ時の衝撃は最大級のもので、私自身、今一番好きな作家さんだ! と再確認した作品でした。その本が文庫化されるにあたり、一章追加されたとのこと! 興味津々で手に取りました。

「夢を応援し続けてくれる人」と信じていた存在が、悪気もなく(むしろ良かれと思って)皮肉にも夢を打ち砕く存在になってしまうままならなさ。そこに、悪意がないからこそ、理解しあえない人間関係が浮かび上がってきて、なんとも悲しい。自分の中の正しさで生きようとする人間の傲慢さが生みだしていく残酷さだけが際立ちます。

また、その傲慢さは一見、薫から雪子に対するものだけのように見えるのですが、「これからどうなるかわからないことに、ぶつかっていくしかないの」「自分の中にあること、そんなに怖がらなくていいんだよ」といっていた雪子自身が、実は薫とは形を変えた別の傲慢さの中にあるのではないか…と読者に気づかせていく展開は秀逸です。

単行本では、雪子も薫も相手のためを思いながら、結局ぶつかっていく対象でしかない事実、そして、人間の持つ善意の仮面を被った傲慢さに「ままならなさ」を感じさせられたのですが、その「ままならなさ」の希望的回収が行われたのが今回の文庫版の加筆です。

30年後に出会う雪子と薫の娘と息子。それぞれが親を反面教師に、母世代と逆転したような個性として育っているのもままならない…。しかし、娘の経営する(象徴的な名を持つ)Life Controlという会社での子供たち世代の交流。「他ならぬ自分」を認識し、「変わりゆく世界の一部に馴染んでいくだろう」と「価値観が異なる」ものとの共存を予感させる子供たち。ままならない世の中で生きる人間たちへの慈しみを感じるような加筆でした。

 

 

同時収録の「レンタル世界」もこれまた「ままならなさ」の結晶のような作品です。人間関係をレンタルするビジネスを嫌悪する主人公ですが、彼が自身の傲慢さを突き付けられることともなるどんでん返しの結末には驚かされます。しかし、その驚き以上のままならなさだけがそこにはあり…、こちらもまた、せつなさがつのる作品でもあります。

  • 2019.07.27 Saturday
  • 20:25

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