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備忘録〜個人的・書籍の感想〜

三島由紀夫『音楽』

精神分析医・汐見和順の手記という体裁を取る本書。「序」で、この手記が「女性の性の問題に関する、徹底的に無遠慮な」もので、「女性読者に反感を催さしめる」かもしれない、と「読者に注意を喚起」すると共に、文学作品とは違ったアプローチをとりながら、「人間性というものの底知れない広さと深さ」にいたるものであると断っています。初っ端から読者は、小説ではないのか(?)…と煙に巻かれた気分になりながら、いやいやそうは言っても…と、三島作品に期待してしまう、という絶妙な始まりが用意されています。扉には、汐見和順述「音楽 精神分析における女性の冷感症の一症例」とのタイトルが示され、読者を迎え入れます。

 

 

美貌の主人公、弓川麗子。彼女の冷感症という悩みと治療中の様子、汐見に送ってくる(対面した時とは印象を変える)手紙など、読み始めは、谷崎潤一郎の妖婦に似たものを思わせるものでした。そこに、彼女に翻弄される登場人物たちが加わっていき、恋人を愛せない彼女の現実、そして、兄との近親相姦…と、目の離せない展開が続いていきます。真実に行き着いたと思ったらまた別の真実らしきものへと、麗子が冷感症を克服するための真相は常に変化し続けていき、まるでサスペンスのような趣に…。その頃から読者は、谷崎的な妖婦らしさではなく、三島の描こうとしている女性心理の方にすっかりひきつけられてしまいます。

では、「音楽」の象徴するものとは…。なぜ「音楽」なのか…。一番のお楽しみは本編を読んでいただくくとして、精神分析用語をふんだんに取り入れながら、印象的な登場人物たちと、気の抜けないストーリー展開で読ませる作品でした。サスペンス的に読者をひきつけてきた割には、最後の1ページが…という思いも若干残りましたが、それは分析医の手記ですから…という落とし所なのでしょう。扉と結末を手記テイストにして淡々と描いた作品のようなに粧いながら、やはり中身は三島由紀夫作品ならではの、面白さと意外性に満ちていました。まさに、主人公麗子そのもののような小説と言えるのかもしれません。

  • 2018.12.29 Saturday
  • 08:57

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