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備忘録〜個人的・書籍の感想〜

中村文則『土の中の子供』

『教団X』がいろんな要素がある小説だったので、どこが中村文則さんの持ち味なのか気になったのもあり、芥川賞受賞作『土の中の子供』を手に取ってみました。

背表紙には、次のように紹介されています。

 

27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。著者初の短篇「蜘蛛の声」を併録。

 

土の中に生き埋めにさせるなどの被虐体験だけにとどまらない、命を危険にさらすような「恐怖」をもたらす出来事の数々が次々に主人公を襲ってきます。その中には、主人公自らが引き寄せようとしたものもあり、また、偶然に見舞われたものもありますが、どの出来事も、それを克服することで主人公自身が立ち上がる力を得ていくというような、イニシエーション的出来事となっているように感じました。

 

 

彼が立ち向かおうとするのは、「この世界の、目に見えない暗闇の奥に確かに存在する、暴力的に人間や生物を支配しようとする運命というものに対して、そして、力のないものに対し、圧倒的な力を行使しようとする、全ての存在」です。ギリギリまで自分を追い詰めていくことで、自らを脅かしてきた恐怖や理不尽を凌駕していく主人公。だからこそ、これ以上の悲惨さはないと思われるような彼の人生であっても、読者はそこに希望を見ることができるのだと感じました。

同時収録の「蜘蛛の声」は、「土の中の子供」とは逆に内に入り込んでしまう主人公の話でした。両者を並べて読むことで、人は、おかれている精神状態や状況によって、外向かって立ち向かう力を手に入れることもあれば、内に向かって力を蓄える時間も必要なのだろうと感じさせられました。

  • 2020.08.01 Saturday
  • 17:24

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

中村文則『教団X』

『文筆系トークバラエティ ご本、出しときますね?』を読んで、以前から気になっていた中村文則さんの『教団X』にやっと手を出しました。中村文則さん、初読みです。

文庫600ページに、様々な要素が入り込み、登場人物たちそれぞれが背負っている(哲学的とも見える)信念のようなものが、これでもか、これでもか、というくらいに丁寧に描かれていきます。とにかく作者の書きたいことが全て書き尽くされていく、という感じで、ここまで書ききったら、作家としては気持ちがよいだろうなという印象でした!

物語で語られる、科学的思想や宗教的思想、そして、世界状況の分析などなど…、示唆に富んでいて、そこらを細かに丁寧に読んでいくと、600ページ以上の読み応えのある作品です。

 

 

物語の進んでいく方向、そして、彼らを動かしていく過去や思想などが、いわゆる世の中の暗部を抉り出していくようなものなので、一体この小説はどこに向かっていくのだろう…と思いながら読み進めていきましたが、結末の着地点が、ままない世の中にあって、人間そのものを信じたい作者自身の希望を見るようで、救われたような気になりました。

最後に語る人物も、それまでの登場人物たちへのスポットの当たり方でいえば意外でありながら、いや、やはりこの物語の全てを背負いきるには、この人でなければならなかったのだな…と妙に納得させられました。

  • 2020.07.05 Sunday
  • 22:13

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

西加奈子『ふる』

主人公は、自分の願望を考えることなどなく、人を安心させて見くびらせる何かがあると自認し、自分が誰なのかを見つけられずにいる「池井戸花しす」です。彼女が「新田人生」という名を持つ7人の男たちと出会いながら、「自分はなんて、なんてたくさんの人と、関わってきたのだろう」と気づき、それぞれの人が「その人の人生を生きている」「奇跡」に思い当たるまでの物語です。

 

 

花しすが出会う「新田人生」とは、一人一人が新たな人生を持っているという隠喩なのでしょうか。子どもから大人まで、年齢も職業もバラバラの「新田人生」とのエピソードごとに、一つずつ花しすにふってくる文字も象徴的で、やわらかな温かさを持つ言葉ばかりです。

あんしん・わらって!・おいしいよ!・こうふく・かんぱい!・せいこう・はじめまして!・しゅくふく

また、花しすは、全ての人の体のどこかにくっついている「正体が分からない」白くて、ふわふわしているものを見ながら生きているのですが、「得体のしれぬ」ふわふわが何なのか、なかなか種明かしはありません。しかし、そのふわふわが女性器から生まれたものであり、花しすが「母の子ども」である自分を受け入れて、皆が「誰かの子ども」であると認めていった時、読者である私自身も、全ての人々がふわふわの祝福をまとって生れ落ちた存在なのだと納得させられた気がしました。花しすは、全ての人々に授けられた「祝福」を白いふわふわとして目にしていたということなのでしょう。

AVへのモザイクがけという花しすの職業もふくめて、女性の象徴としての女性器を切り口としながら、そこから生まれてくるすべての人間存在への讃歌のように感じました。もしかすると、祝福された確かな人生を手に入れた花しすも、また、私たち読者も、皆誰かの「新田人生」であるのかもしれません。

  • 2020.06.21 Sunday
  • 14:55

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

小池真理子『恋』

前回の『二重生活』に引き続いて、小池真理子さんの第114回直木賞の受賞作品『恋』です。

タイトルだけを見ると、所謂恋愛小説なのかな…と想像しましたが、これが一筋縄ではいかない様々な「恋」が入り混じった作品で驚きました。描かれた「恋」の形は様々で、しかもどれもが普通に「恋」という文字面から想像するタイプの「恋」とはかけ離れたもので驚かされました。

 

 

裏表紙には、

 

1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした…。全編を覆う官能と虚無感。その奥底に漂う静謐な熱情を綴り、小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。

 

とあります。

冒頭で主人公布美子の行く末が語られているにも関わらず、最後の最後まで先が読めまないミステリーとなっています。とにかく、一つ一つが用意周到に積み重ねられ、結末まで組み立てられているので、ネタバレの観点からは、上の解説以上の内容については全く語れません。もちろん話の筋の面白さの魅力もあるのですが、そこに悲しい人間の性が驚きの展開の中で描き出されていき、先へ進めば進むほど退廃的な空気感をまとった純文学的読みごたえが加わっていって飽きさせません。

何か(誰か)をひたすらに恋う心が、幾重にも描かれた作品なので、これまで一途に思いをかけたことのある人(かけたいと願う人)であれば、何かしら立ち止まらずにいられない、思わず読み続けさせられてしまう、そんな作品でした。

  • 2020.06.06 Saturday
  • 22:04

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

小池真理子『二重生活』

門脇麦×長谷川博己×リリー・フランキー×菅田将暉の豪華俳優陣共演の映画『二重生活』は、哲学科の大学院生珠(たま)が、担当教授のすすめから「哲学的尾行」を実践して、人間の実存についての論文を書き上げるまでの物語です。好みの俳優さんばかりで興味深く観、また、登場人物としては、リリー・フランキーさん演じる教授に興味を持ちました。そこで、原作では教授がどのような人物として描かれているのか、映画だけでは消化しきれなかった部分を埋めたい衝動にかられ、原作本を手に取りました。

これまでも、映画→原作本という流れで出会う作品は多かったのですが、ここまで原作とかけ離れた映画に出会ったのは初めてで驚きました。唯一、珠に尾行される近所の既婚男性石坂のみが、原作と映画での描かれ方にそれほどの違和感はなかったものの、その他の登場人物は、名前が同じであるだけで、背負っている人生が異なった別人でした。微妙にエッセンスが似ているので、一見同じように見えなくもないのですが、小池真理子さんが意図していたであろう人物像とは、ことごとく別人として切り取られている印象でした。

 

 

まず、主人公珠の専攻は仏文学で、また、彼女に論文を仕上げる必要にもかられてはいません。また、何より恋人との絡みも含めた彼女の背負っている物語が全く異なっています。物語の核となる「尾行」に至る経緯も、教授の講義や人物からの影響はあるものの、自然発生的に珠自らが能動的に開始した「文学的・哲学的尾行」で、目的を持たない「自分自身から解き放たれる」だけのものです。映画でも、「尾行」を「理由のない尾行」と定義してはいるものの、最終的に論文を書くという目的が発生している時点で、原作で描こうとしていた「尾行」の理論は破綻してしまっているように感じました。

また、映画で個人的に興味のあった教授についての知りたい部分の答え合わせ的な記述は何もなく、映画で重要な役割を占めていた教授の物語は、全くの映画のみの設定だと分かりました。つまり、映画で描きたかったものと、原作で描いていたものはやはり別のものであった訳で、結末の差異云々を超えて、もうテーマが異なっているので、それぞれ別物として味わうしかない、という結論に達した読書体験でした。

背徳や秘密に焦点をあてた「二重生活」を描いた映画としてのテーマも嫌いではありませんでしたが、虚無を抱えて日常を生きる一女性の、自己解放の手段としての「尾行」という「二重生活」を得た現実の方に、より信ぴょう性を感じました。

  • 2020.05.24 Sunday
  • 11:59

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

BSジャパン/若林正恭編『文筆系トークバラエティ ご本、出しときますね?』

外出自粛が続く今年のGW。普段あまり本とご縁のない人でも気軽に読めて、一冊でいろいろ出会えちゃった感をもらえる一冊などいかがでしょう。

芸人・若林正恭さんが司会進行を務め、毎回2名の作家がゲストとして登場し、日常生活や仕事のスタイルを語るテレビ番組『ご本、出しときますね?』の書籍版です。

番組HPの概要には、

「無類の本好き芸人、オードリー若林正恭と、第一線で活躍している人気小説家、エッセイスト、漫画などの「作家」達が、自分の人生の中で決めている“自分のルール”などをテーマに爆笑トーク! 番組の最後には“そういう時はこれを読め!”という、イチ押しの「本」を紹介してもらう、文筆系トークバラエティです。」

とあります。

 

 

大変ユニークな小説家たちが登場。西加奈子, 朝井リョウ, 長嶋有, 加藤千恵, 村田沙耶香, 平野啓一郎, 山崎ナオコーラ, 佐藤友哉, 島本理生, 藤沢周, 羽田圭介, 海猫沢めろん, 白岩玄, 中村航, 中村文則, 窪美澄, 柴崎友香, 角田光代, の錚々たるメンバーに加え、書籍特別企画として、尾崎世界観, 光浦靖子との鼎談も収録されています。

若林さんと作家たちが繰り広げるトークなので、普段あまり本を読まない読者でも気軽に手に取れ、小説家たちの素顔をのぞくことができます。ライバル作家への嫉妬や独特のコダワリなど、小説家たちのナマの人間の部分に楽しく出会わせてくれる一冊となっています。また、トークの内容に合わせて、同じような悩みをもつ読者へのオススメの一冊も毎回処方されます。

社会に出て行くのが不安な人、肩の力を抜きたい人、ズルしたくない人、悩める二十代などなど、読んでみたくなる本がズラリ。気軽に楽しめる、作家&読書のススメです!

  • 2020.05.01 Friday
  • 17:23

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

又吉直樹『劇場』

本来ならば、昨日4月17日が公開予定だった、山賢人×松岡茉優×行定勲監督「劇場」の原作本ですが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、映画も延期されたようです。まさに非常事態…で、一日も早い収束を(当初は安易に使っていた終息の文字が、使えない状態になってきました)願う日々です。まずは、私自身もStay Homeから…。日本中が心を一つに、なんとか乗り切っていきたいです。

さて、又吉直樹さんと言えば、芥川賞を受賞した『火花』が、とにかく人間が好きな方なんだろうなぁ〜との印象で、また、泥臭さも感じさせる真面目ぶりの中で、ホロリとさせたりもして、一気に読まされました。彼の恋愛小説ということで、どんな作品なんだろうと興味津々で手に取りました。

スミマセン、以下ネタバレありです。(もしかすると映画と原作では、二人の出会いが少し違っているかもしれませんが…)

 

 

「好きな仕事で生活がしたいなら、善人と思われようなんてことを望んではいけないのだ。恥を撒き散らして生きているのだから、みじめでいいのだ」という主人公永田は、前衛的な劇団「おろか」の脚本家であり演出家です。そんな彼が、沙希との出会いによって、恐怖の対象であった人間を尊いと思えるようになっていきます。排除するのではなく、取り込んで、受容することを知り、また、この瞬間に立ち会うために生まれてきたのかもしれないと思えるような瞬間を体験できるようになっていくのですが、その変化を沙希本人には見せられないのがもどかしくもあります。そして、そんな永田にとって「一番安全な場所」が、二人の恋愛の劇場である沙希の部屋です。

この「安全な場所」が最も「劇場」と化すのが、二人が呼吸していた部屋が死んでいく箱となっていくクライマックスです。部屋を照らす月と、猿の面をつけた永田は、二人の出会いとなった画廊に飾られていた、月の下歯を剥き出しにいて睨みつける猿の絵画そのものです。出会いの場面では、ガラス窓越しにその絵画を眺める側であった二人が、今は劇場の中で、演じる側としてそこにいるという現実も象徴的でした。

「演劇でできたことは現実でも再現できる可能性がある」という永田。これから、心動かされる瞬間を作り出す演劇を目指していくだろう永田流に解釈するならば、演劇を経由することができた二人の現実は、「現実に対抗し得る」演劇の力によって、二人それぞれにとって意味あるものになったのかもしれません。たとえそれがどのような結末であったとしても…。

 

又吉さん的なイメージの永田を、映画で山賢人さんがどう演じるのか…。映画の見どころの一つとなりそうです。世の中の平穏がもどってきたら…、とそれも楽しみに…。

  • 2020.04.18 Saturday
  • 18:36

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

岸見 一郎、古賀 史健『幸せになる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教えII 』

昨日に引き続きアドラーです。

『幸せになる勇気』は、『嫌われる勇気』の問答でアドラーの思想に感化された青年が、3年後にもう一度哲人を尋ねるところから始まる続編です。青年は、「価値観を揺さぶられ、曇っていた空が開け、人生が変わったような気にさせられる。非の打ち所がない、世界の真理さえ思え」たアドラーの思想が、「現実世界では、空虚な理想論」で、「害悪をもたらす危険思想」だったと息巻いて登場し、また二人の問答が始まります。続編では、「具体的にどのように歩んでいけばいいのか」、「抽象ではなく、具体の話を。理論ではなく、実践の話を。理想ではなく、現実の話」が語られていくことになります。

 

 

具体的に展開されていくのは、アドラーの教えに感動して、教育者として子どもたちに教えを届けようと図書館司書を辞めて中学校の教員になった青年の直面している問題です。「ほめてはいけない、叱ってもいけない」というアドラーの教育方針で張り切っていたものの、その方針では教室の統制をとることができなくなってしまったという青年。実際に彼は教室でどうずればよかったのか…。アドラーの理論はもちろん変わらないのですが、哲人との問答を通して、青年がアドラーを理解しきれていなかった部分と、教えを実践することの難しさが浮かび上がってきます。

教育現場の問題ということもあり、問題行動を起こすときの5段階の心理状態なども詳しく語られ、興味深く読みました。最終的に、青年の反論に答えていく二人の問答は、「尊敬」「愛」「自立」といった議論に到達していきます。しかも、この「愛」や「自立」、さらには「幸せ」といったものが、アドラー流の解釈を与えられていき、自分(わたし)ではなく「わたしたち」を主語に生きるというところまでつながっていきます。

詳細は読んでいただくしかありませんが、「いま」を誠実に生きていきながら、ありのままの私として「シンプル」にあり続けるしかない、と感じました。最後に、私が個人的に印象に残った文章を…。

 

「知」とは、学問だけでなく、人間が人間として幸福に生きるための「知」も含みます。すなわち、共同体のなかでどのように生きるべきなのか。他者とどのように関わればいいのか。どうすればその共同体に自分の居場所を見出すことができるのか。「わたし」を知り、「あなた」を知ること。人間の本性を知り、人間としての在り方を理解すること。アドラーはこうした知のことを「人間知」と呼びました。

  • 2020.04.05 Sunday
  • 15:25

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

岸見 一郎、古賀 史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』

2013年12月発売の本書ですが、本日のAmazonのランキングでも、倫理学入門で堂々のベストセラー1位でした。

世界的にはフロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨匠とされながら、日本国内では無名に近い存在のアルフレッド・アドラーの思想が分かりやすく学べると人気のようです。

アドラー心理学を、哲人と青年の問答式で紐解いていくのですが、まさに「劇薬」的処方と言えるもので、私たちの日常で当たり前になっている考え方がことごとく打ち砕かれるところから始まります。そして読者は、青年とともに、哲人の語りを通して「どうすれば人は幸せに生きることができるか」を理解していくことになります。

 

 

初っ端の衝撃は、過去の経験の結果が今の自分であるという「原因論」で考えがちな私たちの認識にノーがつきつけられることです。ノーの理由については問答に詳しく、そこの論法がアドラー独自のもので面白いところではあるのですが、割愛するとして、

「これまでの人生になにがあったとしても、今後の人生をどう生きるかについて何の影響もない」「人生とは誰かに与えられるものではなく、自ら選択するものであり、自分がどう生きるかを選ぶのは自分なのです。」

という道筋が示されていきます。

また、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と言い切り、「他者の課題には介入せず、自分の課題には誰ひとりとして介入させない」という考え方も思い切った考え方です。「他者の期待を満たすために生きているのではない」のだからと、「他者から承認を求めることを否定し」、「自分の信じる最善の道を選」んでいくなど、「他者を変えるための心理学ではなく、自分が変わるための心理学」が展開されていきます。自分であり続ける「自由」、こそが「他者から嫌われること」であり、この「嫌われる勇気」はタイトルにもなっています。

とは言っても主観的に生きろというのではないところが、一番の特徴です。「自己受容」した人間だからこそ「自己への執着を、他者への関心に切り替えて」「他者を信頼」することができる。生かされている自分としての「共同体感覚を持」って、自分が「なにを与えられるか」を考えながら「いま、ここ」を充実させていく。アドラー心理学とは、「今この瞬間から変われるし、幸福に」なれると背中をおし、また「勇気」とありのままの自分であることに自信をくれる心理学だなあと感じました。他人を気にせずに、しかし他人と生きることを第一に考えるというのは、私たちに一番に必要なものなのかもしれません。

 

 

続編も発売されています。続編については、また明日…。

(余談:限定特装版が出ていたので購入したのですが、かなり金ぴかで驚きました@笑)

  • 2020.04.04 Saturday
  • 21:15

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

西村賢太『苦役列車』

前々回の備忘録『きことわ』と同時に、第144回芥川賞を受賞した作品です。

第144回芥川賞では、文学界のサラブレッド一家の20代女性・朝吹真理子さんと、中学卒業後日雇い労働で生活してきた40代男性・西村賢太さんという対照的な作者が受賞したことでも話題になりました。二人の特別対談は、shinchoLIVEで、記事や動画として公開されています。

西村賢太さんは、「私小説」作家として執筆をつづけられていて、受賞の前も後も変わらずに、西村賢太さん自身を投影した北町貫多を主人公とした物語を発表されています。もちろん、受賞作品の「苦役列車」も、併録の「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」も北町貫多が登場します。

 

 

「苦役列車」は、父親が性犯罪の犯人として逮捕され、住居を転々とせざるを得ない少年時代を過ごし、中学卒業後、日雇い労働で生活してきた貫多の19歳の物語です。貫多は、埠頭の冷凍倉庫で、ただベルトコンベアーにのせられたような苦役を続けながら、人足である自分を「奴隷」「囚人」だととらえています。

「かかえてるだけで厄介極まりない、自身の並外れた劣等感より生じ来たるところの、浅ましい妬みやそねみに絶えず自我を侵食されながら、この先の道行きを終点まで走ってゆくことを思えば、貫多はこの世がひどく味気なくって息苦しい、一個の苦役の従事にも等しく感じられてならなかった」

とは言え、どうしようもない日常でありながら、主人公(や西村さん自身)にとって小説家としての将来につながる藤澤清造の小説との出会いが用意されているあたりに、希望を感じました。また、私小説家となった後年の貫多を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を個人的に面白く感じたもので、他の年代の貫多が気になってしまい、北町貫多シリーズを読んでみたくなっています。

石原慎太郎さんとの対談などを拝見すると、西村さんご自身が「私小説」作家であることにかなり拘っていて、とにかく正直に書くことを大切にされている作家さんのようなので、シリーズとして見えてくる貫多、そして小説家西村賢太さんに興味をひかれています。

  • 2020.03.21 Saturday
  • 16:11