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備忘録〜個人的・書籍の感想〜

河合俊雄『ユング 魂の現実性(リアリティ)』〜現代思想の冒険者たち03〜

哲学者の池田晶子さんが、著書『人生のほんとう』の中で、「ラジカルで面白い」ユング心理学者として紹介していたのが、河合俊雄さん。父・河合隼雄さんが、文化庁長官という立場にあったことを引き合いに出しながら、

「そういう制約の全然ない人が魂の事柄に入り込むと、ああ、なるほどこうなるのかというぐらい、完全に狂気に入り込むことができる。狂気という言葉はもちろん、私にとっては最大の褒め言葉ですけど。(笑)非常に面白い経験でした。」

と。また本書については、

「それがとても読みやすくて、また不気味でよかった。おすすめします。」

と。ということで、全くご縁のなかったユング心理学を!

 

 

まず驚いたのが、「心理学が自然科学とも哲学とも違う」点として、「心理学的な事実、ファンタジーを扱う」としているところでした。神経症に適応していくためには、「現実を造りだし、ひいては神経症を作り出しているファンタジーをいかに見抜いていくかが問題」とのこと。「現実性とは人の魂の活動によって、ファンタジーの働きによってしか与えられない」、それならば、その「魂」とは…という本書。

「自我」「自己」「個性化」「無意識」「結合」「錬金術」などのユング的キーワードはもちろん、フロイトとの決別を盛り込みながら、ユング心理学にどっぷり浸ることができます。なぜ心理学に「錬金術」?との素朴な疑問も、錬金術で生み出した物質ではなくて、その「作業における心理学的な過程に注目」しているのだと分かると納得です。魂の生み出した全てを現実のものとして受け止めていくユング心理学が分かりやすく解かれていきます。

それにしても、ユングが実際に見たという「夢」や「幻覚」の数々に驚きます。3、4歳の頃の夢でさえ、私自身には一生かかっても絶対に見られないような象徴的で、おどろおどろしいもので…。オカルト現象を現実のものとして受け止めるあり方ともあいまって、やはりユングだからこそたどりつけたユングの思想なのを実感した評伝でした。

  • 2018.07.14 Saturday
  • 09:47

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

山田詠美『珠玉の短編』『4 Unique Girls 人生の主役になるための63のルール』

私は通常、胸やけするほどのコッテリとした性愛を描く作家、もしくは、思春期の少年少女の発情の有様に美辞麗句を並べてハッタリかます作家、さらには、手のかかる子供らに無垢という罪状をでっち上げる作家として知られていますが、実は言葉用の重箱の隅をつつく病の重症者なのです。

「言葉用重箱の隅つつき病−あとがきにかえて」より

 

 

『珠玉の短編』は、第42回川端康成文学賞受賞作「生鮮てるてる坊主」を含む11編の短編集。「珠玉」という題名とは真逆の印象を与える作品のオンパレードで、残酷さが山田詠美的毒として注入された、これでもか、これでもか、の11編。テーマもそれぞれ、心に潜む闇をつくような人間の怖さなど、かなり振り切った衝撃的な詠美ワールドですが、そこに「珠玉」をはじめとした、「箱入り娘」「骨まで愛して」「命の洗濯」「蛍雪時代」という死語的(!?)題名を配していくところにも彼女のアイロニーを感じます。彼女の作品群で言うならば、野間文芸賞受賞作『ジェントルマン』的系譜の短編が並んだと言えば分かりやすいかもしれません。もちろん、短編でなくじっくりと読みたくなり、『ジェントルマン』に加え、『学問』まで持ち出してきてしまったのは言うまでもありません。

 

 

『4 Unique Girls 人生の主役になるための63のルール』は女性誌『GINGER』の巻頭エッセイをまとめた一冊。(現在も連載は続いているらしいですが、)初っ端から、女性誌のテーマとなりそうな「自分磨き」や「ポジティブシンキング」にもの申すところから始まり、エイミー節が満載で、ファンはたまらずにやりとしてしまいます。彼女の目指す「腹に一物」持ちながら自分が主人公となって生きる「ユニーク」な女性像には納得で、いわゆるステレオタイプの調和を目指す啓発本よりは、よっぽど血にも肉にもなることうけあいです。

  • 2018.06.30 Saturday
  • 20:59

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

カミュ『異邦人』

「きょう、ママンが死んだ。」の冒頭文であまりにも有名なこの作品。読んでみると、この文章のみから受ける印象とはまったく違った、期せずして殺人者になってしまった男の話であることに驚きます。いやむしろ、世の中の不条理の犠牲になった男と言った方が良いのかもしれません。

 

 

主人公ムルソーは、亡くなった母親の年齢も答えられないし、葬式の翌日に女性と関係を結ぶなど、一見、虚無的とも言えるような無関心さで存在するのですが、読み進めて行くにつれて、本当に虚無と形容して良いのだろうか…と疑問がわいてきます。

もちろん、友人の女出入りに関係して、殺人を犯してしまいながらも、何の自己弁護をすることもなく、動機を「太陽のせい」だとしか答えずに、結果的に裁判で死刑を宣告されてしまうムルソーは、群衆をいらつかせる何かをはらむ無気力な人物のようにも見えます。

しかし、結末で、自らの処刑の日には見物人たちが憎悪の叫びを上げながら自分を迎えることを望むムルソーに至る時、真実を見つめることなくご都合主義で判決を出していく世の中の人々とは違った、達観した人物として描かれているのではないか、とさえ感じられてきます。むしろ、世間の常識という正義でもって人を裁き、結果的に不条理な判決を生み出してしまう一般大衆の方が、よほど危ういのではないかと。

世の中の当たり前に対して「異邦人」でしかいられないムルソー。異端者としてあるものが、葬られるしかない現実を示すため、そして、そんな異端者を盲目的に罰しようとする愚かな一般大衆を暴くために、彼は存在しているのかもしれません。

  • 2018.06.23 Saturday
  • 13:39

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

中島京子『FUTON』・田山花袋『蒲団』

中島京子さんのデビュー作が、なんと日本の自然主義文学の代表作であり、私小説の出発点ともいわれる田山花袋『蒲団』のパロディだったとは!

『蒲団』は、妻も子もいる中年の小説家(竹中時雄)が、一方的にプラトニックな思いを寄せる女弟子(横山芳子)が男性問題で故郷に帰された後に、残された部屋で彼女の使っていた蒲団や夜着に顔をうずめて泣く話として有名で、実際にモデルがいたこともあり、「赤裸々な内面を大胆に告白」した面が取り上げられる作品です。

 

 

『FUTON』は、アメリカの花袋研究家であるデイブ・マッコーリーが主人公で、『蒲団』の時雄、芳子、そしてその恋人田中の三角関係(?)に似た関係が、デイブ、エミ、ユウキの中で繰り広げられます。しかし、三角関係と言いながらも、時雄の恋(のようなもの)は中年男の一方的なものですから、人物→人物△悗了廚い箸靴童るならば、時雄→芳子の関係に似たものは、『FUTON』の登場人物の中にいくつもの関係を見つけることができます。ウメキチ、イズミなど…いくつもの人物の絡み合いも読みどころです。

そして、何より面白いのは、合間に挟まれる、デイブ・マッコーリーの書く「蒲団の打ち直し」という小説です。これは『蒲団』では「旧式」の女性で名前も与えられていなかった時雄の妻目線で書かれたもので、「美穂」という名を与えられた彼女の煩悶が手に取るように分かります。そして、彼女が最後にたどり着く先が、これまた『蒲団』に書かれていなかった別次元の問題へと発展していきそうなところで終わり、そうきたか!、とうならされます。

『蒲団』から『FUTON』の順番で読まれることをオススメします。

  • 2018.06.16 Saturday
  • 13:49

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

斉藤美奈子『名作うしろ読み』

願わくは名作のオコボレを少しでも長く頂戴できますように。

 

鋭い論調でスカッと愉快になる文芸評論家・斉藤美奈子さんの本はどれも読んでも面白いのですが、『名作うしろ読み』は、本を読んでいなくても、名作の冒頭部分を知っている人は沢山いることの逆の発想からの一冊です。「名作は“お尻”を知っても面白い!」と銘打ち、「お尻がわかったくらいで興味が半減する本など、最初からたいした価値はないのである」と言ってのけ、名作132冊を最後の一文から読み解いていく文学案内です。お尻から入るので、本の内容も大変入ってきやすいのがこのスタイルの利点です。

読売新聞夕刊のコラムが元となっていることもあり、一冊の紹介は見開き2ページで読みやすい分量。しかも、読書案内の中に斎藤美奈子流の斬新な読みを呈示するという面白さです!

上の引用は文庫版のあとがきの最後の一文ですが、単行本版の最後の一文

 

評論のラストはとかく説教臭くなるのが問題なのだ。

 

とともに、自分の書さえもバッサバッサと切っていくような痛快ささえあります。おそらく、作品によっては、読者自身の読みと違って、アレッ? そうかな? と読者が同意できない案内があることも想定内で、むしろ、それを恐れずに、自分なりの振り切った読みを楽しんでもらうことに主眼をおいているのだろうなと感じました。

 

 

読売新聞の連載は続き、続編『名作うしろ読みプレミアム』がすでに単行本化されているようです。どう「プレミアム」なのか、こちらも興味津々です。

今回改めて読んでみたいな、と思った作品も多かったのですが、未読で特に心ひかれているのが、中上健次『紀州―木の国・根の国物語』。芥川賞受賞作の『岬』とともに読んでみたいと思っています。

とにかく、紹介された132冊が読みたくなること間違いなし!です。

  • 2018.06.02 Saturday
  • 00:28

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

南木佳士『ダイヤモンドダスト』

最近はまっている海外ドラマが「グッド・ドクター」(※注)です。wowowでアメリカ版「グッド・ドクター 名医の条件」が放映され始めたのをきっかけに(現在放映中)、韓国版の全編が見られるwowowオンデマンド放送に行き当たりどっぷり…。アメリカ版から入ったので、初めは韓国版の泥臭さが気になっていたのですが、見続けていると淡々としたアメリカ版よりもどんどん味が出てきて、すっかり韓国版ファンになってしまいました。
そんな中、医学ものが読みたくなり、第100回芥川賞受賞作、南木佳士『ダイヤモンドダスト』を。医師でありながら小説家でもある南木佳士さんならではの(医学)短編4作と、同じく医師と小説家の顔を持つ加賀乙彦さんとの興味深い対談で構成されています。やはり「ダイヤモンドダスト」がベストでした。
このところ、ドラマの視聴者の期待に添って進んで行くストーリー展開(これがドラマとしては面白いところなのですが)になじんでいたこともあり、むしろ、現実としてそこに「ある」死から目を背けることはできない臨床医でもある作家南木さんの姿勢を余計に感じてしまった読書体験でした。また、どの作品のどの登場人物も病気以外の満たされない何かを抱えていて、それがまた現実味を持った人間として浮かび上がってきます。設定も、結末も、決して明るい要素はないのですが、死への敬意というでもいったような静謐な何かが流れていて、南木さんにとって命とは、「ダイヤモンドダスト(大気中の水分が凍結してできた微細な光の粒)」そのものなのだろうと感じずにはいられませんでした。

 


おまけ…なんと、タイムリーにも今日、日本版「グッド・ドクター」が山 賢人主演でフジテレビ系7月期木曜ドラマとなることがネットで情報解禁されていて驚きました。日本版はどんな味わいになるのでしょう…。私自身は、基本的にオンデマンドでの海外ドラマ視聴が多く、日本のドラマは見ていないのですが、このタイミングなので見てしまうかもしれません(笑)

 

※注「グッド・ドクター」−天才的な能力を持つ、自閉症でサヴァン症候群の青年が困難を乗り越え、医師として成長していくヒューマンメディカルドラマ。2013年に韓国で作られ、2017年にはアメリカでフレディ・ハイモア主演でリメイク。

  • 2018.05.26 Saturday
  • 21:03

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

朝日新聞社/朝井リョウ『18きっぷ』&立花隆/東京大学『二十歳のころ』『二十歳の君へ』

ちょうど今、高校二年生の現代文の授業で中島敦の「山月記」をやっているところなのですが、生徒達自身にとっても、自分の思い煩いに触れる教材となるようです。教科書をじっくり読み終わったら、ぜひとも生徒達に紹介したいのが、同年代の手記です。

(本ブログ)前回のエッセイ集の中でも朝井リョウさんは、高校生のパワーや破壊力について「勝てる気がしない」と言っていましたが、『18きっぷ』は、そこから一歩踏み出そうとする、良い意味で畏れを知らない最後の(!?)年齢である18歳の46人のナマの声がポートレートと共に掲載されています。目指そうとする道も職業も様々…。誰一人かぶることがない「人生の選択」が、一人一人は熱く、しかし書籍としては淡々と46並べられています。巻末には、それぞれの一年後の今も掲載されていて、目指す道を突き進む者もいれば、別の道を見つけた者もいるという、社会に一歩踏み出した19歳の現実もそこにあります。

 

 

『二十歳のころ―立花ゼミ『調べて書く』共同製作」立花隆+東京大学教養学部立花隆ゼミ』&『二十歳の君へ 16のインタビューと立花隆の特別講義』

『二十歳のころ』は、立花隆ゼミ&東大生だからこそ実現した企画で、大学生達が有名無名の68人に「二十歳のころ」をインタビューしてまとめたもので、有名人・学者・被爆者・元オウム信者・駐日大使など、とにかくあらゆる業種の人々が出てきます。個人的には、★加藤登紀子★秋山仁★佐藤学★立花隆★鶴見俊輔★野田秀樹★山藤章二★横尾忠則★吉川弘之★吉永良正(+長崎被爆者語り部の方々全員)を特に面白く、印象深く読みました。(書き手が学生なので、きっと担当学生の力量にもよるのでしょうが、)エンターテイナー的な立場から話をしてくれる人のインタビューがやはり面白いなと。

続編『二十歳の君へ』は、『二十歳のころ』の流れをくむ「インタビュー集」と「立花隆の特別講義」と「ゼミ生の手記」の三部構成。バラエティに富む人選と、書き手としての学生の成熟を感じさせるインタビューは、前回より面白く読ませましたが、やはり圧巻は「立花隆の特別講義」!!6時間分の講義は読み応えあがあり、とっくに二十歳の2倍を生きたオバサンの脳ミソも刺激されました。意外に(!?)面白くオススメなのが、思いわずらっている「ゼミ生の手記」。この手記も、「山月記」の後に使うのにピッタリです!

  • 2018.05.20 Sunday
  • 23:57

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

朝井リョウ『風と共にゆとりぬ』

エッセイ集第二弾!本ブログでも登場回数の多い朝井リョウさんは、個人的に今一番好きな作家で、(年甲斐もなく若い作家さんにこんなにも惚れ込むとは思っていなかったので自分でも驚いているのですが)著作はもちろん、(ネットで後追いですが)ラジオも聴いてしまっています(笑)
「読んで得るもの特にナシ!」と銘打った『風と共にゆとりぬ』ですが、ラジオ「朝井リョウ・加藤千恵のオールナイトニッポン0」(放送終了)や「高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと」でのトークを彷彿とさせる彼のナマの声が聞こえてきて、バカバカしく可笑しく楽しくも、朝井リョウ的毒をほどよく注入してもらえる一冊です。ラジオで語られたエピソードも、本という味付けの違いの妙を楽しめます。アエテ感漂うこの大仰な装丁にも遊び心が…(笑)

 

 

エッセイの前作『時をかけるゆとり(『学生時代にやらなくてもいい20のこと』に加筆)の続編もあったり、また、『ままならないから私とあなた』や『世にも奇妙な君物語』に関わる内容も出てきて、つい他の作品にも手をのばしてしまいたくなります。(エッセイやラジオで)彼の代名詞となっているお腹&お尻ネタも長編「肛門記」として結実。また、三部に分かれた二部「プロムナード」が日本経済新聞に半年間連載されたコラム集で、作家として意識的に構成された章となっていて、エッセイでもまた別の趣があり、硬軟両方を楽しめるのも魅力です。
 

  • 2018.05.12 Saturday
  • 10:43

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

宮下奈都『羊と鋼の森』

2016年度本屋大賞受賞作。調律師の青年、外村の物語。情熱を秘めた静かさの中に、前を向いて生きる人(々)の清々しさを感じられる書でした。

人は、人生のどこかで自分の価値観を変えるような何かに出会う体験をするのでしょうが、主人公にとっては、高校生の時の調律師板鳥と、板鳥の創る音、そしてピアノとの出会いがそれでした。そこから、外村の見えるものが、人生が、色づきはじめます。

調律師への道をこつこつと進んでいく外村は、彼を取り囲む魅力的な登場人物たち(この人物達が一番の読みどころです)との交流の中で調律師として、人間として成長していくのですが、それが甘ったるい成長譚のようになっていないのは、彼が天才的な能力を持つ人ではなく、才能などとは違うところで、自分の手で確かなものを探り当てようとしているからなのでしょう。

とは言いながら、初めての音と出会いで「森の匂い」を感じることの出来る外村は、読者にとって、彼自身でしかない何かを持っている存在としてあり続けてくれます。外村に期待しながら読み進めていく読者は、知らぬ間に(平凡である自分自身を投影し)迷い込んだ森から出る道をさがす外山自身になってしまうのかもしれません。

 

 

どうやら、『羊と鋼の森』は映画化され、6月8日公開のようです。映画では、本のどこに焦点があてられ、魅力的な登場人物達がどこまで描かれているのか…。本では読者が自分の思いのままの音を鳴らすことができる訳ですがさて音楽は…。映画のエンディング・テーマ紹介に辻井伸行さんの名前があったので、外村のミューズともなる人物の演奏を辻井さんがするのでは!と勝手に期待してしまっています

  • 2018.04.21 Saturday
  • 12:22

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

山田詠美『賢者の愛』谷崎潤一郎『痴人の愛』

谷崎潤一郎『痴人の愛』に真っ向から挑んだ話題作、山田詠美さんの『賢者の愛』が文庫になっていたので、改めて両作品を再読。

『賢者の愛』の裏表紙には、

「幼い頃からの想い人、諒一を奪った親友の百合。二人の息子に『直巳』と名付けた日から、真由子の復讐が始まった。二十一歳の直巳を調教し、“自分ひとりのための男”に育てる真由子を待つ運命は−。」

とありますが、もちろん、そんな簡単な話ではありません(笑)。

(ちなみに、2016年にwowowでドラマ化されていましたが、衝撃のストーリー展開に重きを置いている作りで、『痴人の愛』を下敷きにした故に出てきている『賢者の愛』の味や面白みの部分はドラマには描かれず残念でした。)

 

 

(ネタバレにならない範囲で…)谷崎の『痴人の愛』での「譲治とナオミ」の関係にあたる関係がいくつも、何重にも織り込まれていて、一筋縄ではいきません。真由子・直巳・百合・諒一、そして真由子の父など登場人物は、一直線には繋がらず、それぞれの中に、いくつもの「譲治とナオミ」的関係を見いだすことができます。そして、敵対(!?)関係にある真由子と百合の関係にさえ、どちらがどっち…と考えられる要素が…。

しかも、『賢者の愛』の冒頭では『痴人の愛』について、「二人でひとつの痴人という生き物。その下等動物にも似た生態から生み出される愉悦を描いた傑作」とあり、題名の「賢者」の意味とは…など、考えどころも満載です。山田詠美さんの術中にはまりながらも、読者がそれぞれに、自分の見つけた「譲治とナオミ」的関係に答えを出す楽しみを味わえる作品です。

余談ですが、『賢者の愛』には『ぼくは勉強ができない』の時田秀美くんが大人になって登場していて、大の山田詠美ファンの私としては別の意味でも楽しめた作品でした。

  • 2018.04.14 Saturday
  • 12:19