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w closet×JUGEM

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

天童荒太『巡礼の家』

松山人であることの誇りを持てるような小説でした。

道後への、そして、四国八十八カ所を支えるお接待の精神への愛に満ち溢れていて、巡礼の家「さぎのや」で癒される登場人物たちと共に、読者までもが癒されていく、そんな作品です。そして、魅力的な登場人物たちの登場するストーリーを、純粋に面白く楽しみました。

 

 

生きとし生けるもの全ては、「何かしらの役割を背負い、親しい者たちの死を抱え、みずからもやがては死なねばならない、哀しくて切ない旅の者」である。そんな私たちの羽を休める場所として存在し続けてきた、3000年の歴史を重ねる「さぎのや」。日本最古の湯・道後温泉を見つけたサギが、初代の女将だったと言われる「さぎのや」の、人々の悲しみやつらさを受け止めてきた「心」が、「一人のために、みんながおのれを犠牲にして汗をかく」道後の粋と重ねて描かれていきます。

登場人物たちの抱える問題に、戦争、災害なども盛り込みながら、「命の大切さ」「共に生きることのかけがえのなさ」が静かに描かれる一方で、道後の「動」の象徴でもある秋祭での大神輿の鉢合わせの「命の限界を超える勢いでぶつかることで、生きていられることを祝い、喜び、天に向かって感謝を捧げ」る勇壮さも迫力で迫ってきます。

「互いに手を差しのべ、助け合うことで、みんなが共に笑って生きている」道後。命が巡り、人の思いが巡る道後。改めて、道後を散策してみたい気になっています。

 

**************      **************

 

『巡礼の家』刊行記念イベント【天童荒太 ふるさとを語る】

が10月20日(日)松山市立子規記念博物館にて開催されるようです。天童荒太さんがどのような「ふるさと」を語ってくれるのか、今から楽しみでなりません。

  • 2019.10.13 Sunday
  • 10:40

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

田辺聖子『金魚のうろこ』

句友・更紗さんが、SNSの投稿で『金魚のうろこ』を取り上げ、

「明るさのなかに陰があり、面白くて切なくて、諧謔味とユーモアたっぷり。短編それぞれの着地にも唸る。田辺聖子さん、やっぱり凄い〜」

と絶賛。興味をひかれ、思わず手に取った7編の短編集でした。

 

 

それぞれの主人公は、21歳のガールフレンドの36歳くらいの継母に惹かれていく大学生、何人もの男性を手玉に取る(結果的には取られた?)33歳の女性、16歳年下の彼に年齢を告げていない39歳の女性、女性の本質をのぞき見ては相手に本気になれない45歳男性、不倫を花火ととらえ楽しみたい28歳女性、59歳になって58歳までにはなかったある種の達観を手に入れた男性、結婚というゴールに意味を見出せず居心地の良い弟との関係で満足する36歳女性と、一癖も二癖もありそうな人物たちです。

物語には、どんでん返しというか、しっぺ返しなどもあったりするのですが、それぞれが自分の現状になんとなく満足している様子は共通していて、全てを受け止めて焦りなどないところが、淡々とした独特の空気をつくっています。主人公たちが異性に不自由していないという事実も、物事から切実さをなくすことに一役買っている気がします。全編にわたる大阪弁も、登場人物たちの切羽詰まっていない感じと相まって、読者に心地よくストレートに届いてきます。

表題作で、夜明けの美しさを「人生以上に美しいけど、でも、人生にはもっと美しい時もある」とし、それを「人生以上。人生未満。」と表現していたのが象徴的でした。もがき苦しむことのない登場人物たちから、あくせく生きなくてよい、人生はそのままに受け入れていこうよ、とでも言われているような気になりました。

  • 2019.10.05 Saturday
  • 21:36

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』

実在した人形浄瑠璃作家・近松半二の生涯を描いた第161回直木賞受賞作。

主人公は、あの近松門左衛門の硯を譲り受けて、「せめて半人前になるように力を尽くそう」、「半分と半分、二つ合わせて一人前」と名乗りはじめた近松半二。そして、その半二の脇を魅力的な登場人物たちが支えます。斬新なアイデアで歌舞伎界に新風を吹き込むことになる並木正三は、半二のライバルであり、真の理解者。ちょっと癖はあるものの、油断してると「腹ん中が、ひきずりだされる」ような人形を使い、半二を浄瑠璃作家の道へ引きずり込んだ吉田文三郎。肝が据わった女房のお佐久などなど…。枚挙にいとまがありません。代表作でもある『妹背山婦女庭訓』の作成過程をど真ん中に据えて、「ぶっとい芯」のある浄瑠璃を目指す半二たちの物語です。

 

 

それぞれが、それぞれの役回りを背負って動いてる狂言のような「この世」。私たちが生きる世こそが妖かしであり、この世もあの世も虚実の渦である。そんな渦の中から、生まれたがっている詞章をずるりずるりと引き出して、人の世の凄まじさを文字にしてつなぎ止めていくのが人形浄瑠璃である。

人形浄瑠璃の世界の「渦」だけでなく、読者それぞれが生きている世界にある普遍的な「渦」までを意識させられるような作品でした。

人形浄瑠璃という「まことの妖かし」に翻弄されたくなって、さっそく公演情報を検索してしまっています(笑)

  • 2019.09.28 Saturday
  • 19:58

備忘録〜個人的・書籍の感想〜

朝井リョウ『何様』

朝井リョウさんの直木賞受賞作『何者』のアナザーストーリーで構成された短編集『何様』。文庫化ということで再読しました。

『何者』で光太郎の人生を決めさせることとなった初恋の相手とは。理香と隆良の出会いは。社会人になったサワ先輩。烏丸ギンジの現在。瑞月の父親に起こった出来事。拓人とともにネット通販会社の面接を受けた学生のその後の6編。『何様』を通して、『何者』が色付けされていく作品集です。

両書あわせて読んでみて、個人的に印象的だったのは、「それでは二人組を作ってください」ラストの理香の隆良への評価です。『何者』では、拓人と対極にあるような理香でしたが、前書ではうかがい知れなかった理香の本心が暴かれていて、理香という人物の奥深さや恐ろしさ、そして弱さを垣間見た気がしました。また、瑞月の父親に起こった出来事が、最終的に『何者』で瑞月自身に及ぼした影響を思う時、「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」という題名の軽さが余計に人間の人生のあやうさを象徴しているようにも感じてしまいました。とは言え、「何者」かであろうともがいていた前書から一歩進んで、いまだ何者にもなれない自分を、何様なのだと突っ込むような味わいの「何様」では、現実を受け入れていく救いも用意されていて、ある意味読者の背中を押してくれているようにも感じました。

 

 

『何者』と『何様』の表紙を並べると、面接の風景となっているのもなかなか心憎い演出でした。

そして、声を大にしておススメしたいのが、文庫版で追加されたオードリー若林正恭さんの「解説」です。解説を超えて「何様」的に若林さんが裸になってくれていて、一読の価値ありでした! 

  • 2019.09.22 Sunday
  • 14:46

俳句関連・書籍など 紹介

ドナルド・キーン『正岡子規』

9月19日の子規忌ももうすぐです。

数多く出版されている正岡子規の評伝の中から、今年亡くなられたドナルド・キーンさんの『正岡子規』を手に取りました。日本と日本文学をこよなく愛し、2011年3月の東日本大震災の後、日本に帰化されたことでも知られるキーンさんですが、彼が捉える子規像がどんなものなのか、興味深く読み進めました。

子規や子規作品への深い造詣から書かれている本作は、幼少期から最晩年までを追っていく中で、子規を理解するのに外せないオールスターが登場します。また、引用される文献はすべて口語訳付きで載せられていて、明治の文体になれていない読者にとっても読みやすく、子規の生涯を詳しく知ることができます。

 

 

また、キーンさんならではの解説に意外なものが多くて面白く、

・子規は英語力がないと繰り返し述べているが、実は手厳しいものではなく、眉に唾して読んだ方がいい。

・母八重にとって、俳人および歌人といての子規の輝かしい経歴は何の意味もなかった。

・子規は自分の詩人としての仕事について、母や妹に一度も話したことがなく、その重要性が二人には理解できないという結論を下していた。

・子規は蕪村が芭蕉よりも優れていることを証明しようとしたのではなく、芭蕉の「消極美」と蕪村の「積極美」という芸術の世界における二つの美の型を発見しただけである。

・崇拝者的な弟子だけでなく、子規の死後その欠点を非難した若尾瀾水の例もあるが、弟子たちは「一つの革命に参加したという興奮を感じていた」。

・子規の功績によって、俳句や短歌を作ることが現代の世界にいきる経験を語るようになった。

などの指摘などは、ハッと驚かされました。

子規への称賛だけでなく、批判の声なども冷静に分析しながら、日本の伝統文化が危機的状況にあった時代において、「写生」という新しい手法で、俳句や短歌を国民的文芸にまで高めた革命児子規が淡々と描かれた評伝でした。

  • 2019.09.16 Monday
  • 22:26